不定期連載 OSD事務局マネの『長い自己紹介』第9回 | 一般社団法人OSDよりそいネットワーク

不定期連載 OSD事務局マネの『長い自己紹介』第9回

第9回 母の介護と義父の介護

 先日隣に住む義理の母が亡くなった。毎週末妻が夕食の支度をし、義父母と4人で食卓を囲んでいたのだが、2カ月ほど前から急に体調が悪くなり、慌ただしく過ごしているうちにあっけなくその日を迎えてしまった。

 予想外の事態に手を焼くことになったのは葬儀の翌日から。義父が毎日のように隣に来て、「陽子(義母・仮名)がいない」「陽子が戻ってこない」と言う。それも1回だけでなく1日に2回も3回も。その度に「先日葬儀を済ませましたよ」「手前の部屋に祭壇置いたじゃないですか」と答えると、「あ、そうだった」と言って軽く自分の頭をたたいて戻るのだが、すぐに忘れるようだ。葬儀からもうすぐ3週間経つのだが、これが毎日続いている。

 それだけでなく、日中突然こちらに来て「ちょっと話が」と言って1階のリビングに上がってくる。義理の息子としては追い返すわけにもいかず、本当は特に話題もないのだが一応相手になる。自分の仕事があるので20分ほどで切り上げさせていただくのだが、これもまた日に2回来ることもある。このブログを書いてる今日は4回来た。

 驚いたのが、義父は徹底して何も出来ない人だということ。料理、洗濯、掃除はもちろんしたことがなく、お湯も沸かしたことがない。義母が飼っていた小鳥にエサをやることもなく、義母が育てていた植木に水をやることもない。その日着るものも義母が出していたようだ。ここまで何もできないと逆に感心する。“俺はこの家の長男だから何もしない” という意志すら感じる。

 義父は男4人兄弟の長男で、妻曰く “お坊っちゃま” として育てられたらしい。3人の弟は長男の兄をよく立てていて、義父はそれを当然だと思っていたフシもある。この年代のご長男はこういうものなのか。
近所に同世代のお父さん方もいるのだが、会話している風景を見たことはなく、日がな一日テレビを見るともなく見ているような生活。義母が生きている間は義母が相手をしていたが、その役が義理の息子である俺に来てしまった。ちなみに妻は会社員なので平日日中は家にいない。

 義父は昭和8年生まれの90歳で、定年退職してから30年経つ。30年あれば何か覚えられそうだが、趣味らしい趣味もなく今に至る。そんな義父を見ていると、ひきこもりと言われる人たちと義父の違いがわからなくなってきたりもする。ひきこもりの人たちとはまだ夢や希望や未来や可能性の話ができるが、90歳の義父とそんな話をするのは難しい。

 退職後、どんな人生を思い描いていたのか。今さら何を言っても無駄なので努めて冷静に接するようにしているが、こちらは自営業で自宅で仕事しているので、どうしても業務に支障をきたす。
 義父自身「陽子(義母・仮名)が先に死なれたら困る」とよく言っていて、親族一同も半分冗談でそんな話をしていたのだが、実際にそうなってしまい、想定していなかった状況になり毎日困惑している。

 義父は現在要介護1なのだが、これがまた中途半端で、等級が上がってヘルパーさんが来てくれる回数とデイサービスに通う回数が増えてくれれば少しは手も空くかもしれないが、東京は歩けるうちは自助でなんとかしろというスタンスで、まだ隣まで歩ける程度の体力はある義父は要介護2以上には上がりにくい。
 この状況がいつまで続くのかと考えると正直気が滅入る。どなたか義父の話し相手になっていただけないだろうか。

(定期検診で病院に来た母。着くなり「もう帰る」と言って笑わせてくれた)

 一方、俺の母は93歳要介護4で、ヘルパーさんに丸投げなのだがみなさん頑張ってくださって、離れて暮らす次男としてもたいへん助かっている。母もヘルパーさんたちに愛想がよく、デイサービスに行く施設でも人気者らしい。先日もヘルパーさんに言ったのか独り言なのかわからないが「ラーメン3人分作らなきゃ」などと言ったらしく、俺のことも頭数に入っているんだと、ちょっと安心した。

 一昨年の秋に乳がんが見つかり手術もできると言われたが、年齢的にそれもリスクがあるので薬で様子を見ることにした。その結果少しずつだが小さくなっているようで、医学の進歩に感心している。
 しかしここに来てベッドの横のトイレまで歩けなくなってきたという報告を受け、今後の介護をどうするか考えなければならなくなってきたが、兄弟共に一日でも長く自宅で過ごしてほしいと願っている。

 ひきこもり歴32年の兄もすっかり元気になり、母も弱りながらも頑張って生きていて、あとはなるようにしかならないので特に心配することもないのだが、義父に振り回されることになるとは思わなかった。

過去回はこちらから
第8回「調子に乗った話」
第7回「ドラえもんを求めて」
第6回「名ヶ山小学校」
第5回「主な登場人物の紹介」
第4回「母の趣味」
第3回「兄の近況」
第2回「大橋史信さん」
第1回「ごあいさつ」