4月23日(日)講演会直前インタビュー 髙梨智樹さん(ドローンパイロット)、髙梨浩昭さん(智樹さんの父親) | 一般社団法人OSDよりそいネットワーク

4月23日(日)講演会直前インタビュー 髙梨智樹さん(ドローンパイロット)、髙梨浩昭さん(智樹さんの父親)

ドローンパイロットの髙梨智樹さん

 

未来に向かってチャレンジする息子と、子供の意志を尊重する親との素敵な関係

3月28日(火)雨上がりの午後、小田急線本厚木駅近くのカフェで髙梨智樹さん、浩昭さん親子と講演会の打ち合わせと事前インタビューをしてきました。ドローンパイロットの智樹さんのお話はとても楽しく、障害があることを感じさせないとてもチャーミングな方でした。浩昭さんはそんな息子を温かく見守りながらも自然な風格を漂わせる素敵なお父さまでした。事前インタビューの模様をお届けいたします。

■今日お会いした印象では良好な親子関係に見えます。

小さい頃は他人とも親とも話すことは出来ず、実は高校入るぐらいからやっと話ができるようになりました。なぜ話せなかったのかはわかりませんが、親だから他人だからというのは関係なく、自分の気持ちを伝えることもなかったし、人の気持ちを汲み取ることもありませんでした。

自分の読めない、書けないという状態は他の人も同じだと思っていたのですが、みんなは違うということがわかってからは、自分の状況をしっかり口にしないといけないと感じ、伝え始めるようになりました。

2016年に障がい者差別解消法が施行され、時代の変化も感じられるようになりました。学校の先生も県ももっと障がい者に向き合うことが求められるようになり、中3ぐらいからはたくさんの方のサポートを受けながら色々なことにチャレンジをすることができました。

■識字障害と診断された時の心境はいかがでしたか。

驚きましたが、読み書きは得意ではないなとは思っていたので納得しました。また、障がい者という事実に対しても落ち込むことはありませんでした。これまでは、守る術を持っていない無防備のような状態だったので「お前は何で勉強ができないんだ」と言われても何と返せばよいかわからず、単に努力不足だと思っていました。そんな中で障がい者という盾を得ることができ、受験の際にも「識字障害があるので代読や代筆してほしい」と伝えることができたため、ようやく色々なことにチャレンジできるようになりました。弱みが強みになっていったように思います。

■周期性嘔吐症(注1)の最近の状態はいかがですか。

東京大学の先端研究所(注2)と仕事をしていく中でわかったこととして、統計をとっているわけではないものの、メンタル系の病気の方は付随して何か障害があるケースが多いとのことでした。私の場合は、学校等で文字を書くことから逃げたいという思いがあり、それゆえに身体が嘔吐をすることで、注意をひいて、周りから逃げることができる環境を作っていたのではないかと思っています。

今も気圧が変動したりすると体調を崩すことはありますが、自分で調整できるようになってきました。朝はお腹を壊すこともあるので、出発の2時間前に起きて、ウイダーインゼリーでお腹を整えてから食事をとるようにすることを習慣化し、自分で決めたルーティンを達成することで安心感を得られているように思います。また、自分の体力とストレスの状況が良好な時間を作ることもできるようになり、11-14時ぐらいがベストな時間だと思っています。

(注1)智樹さんは識字障害だけではなく、幼い頃から周期性嘔吐症も抱えていました。

(注2)東京大学先端科学技術研究センター「DO-IT Japan」。障害のある生徒を支援するプロジェクト。詳細は講演会当日ご紹介します。

■著書の発売が2020年8月でしたが、その前から今に至るまで、ご自身の取り巻く状況やドローン界隈の状況の変化はありましたか。

『文字の読めないパイロット』
 イースト・プレス 刊

今まで障害のことについてはtwitterやInstagramなどで直接連絡をくれる人もいましたが、本の発売後には、まずはこの本を読んでもらえれば知ってもらえるという形になり、自分へのプレッシャーも減りました。

本を出版して褒められることは嬉しく、自己肯定感も高まりました。情熱大陸の反響は大きく、出演してから本の出版を提案されました。情熱大陸の終わったタイミングで講演会の依頼も多くいただくようになりました。

私としては、本を出して有名になろうというのではなく、同じような境遇の力になれればと思っています。

■智樹さんは、大変困難な状況で育ってこられたのに、お話を伺う限りではさほど悲壮感は感じられませんね。

置かれた状況に対して、そこで終わりではなく、そこから何か生み出せないかを常に考えているからですかね。待っていても周りは助けてくれないので。ドローンの国家資格の受験についても、ちゃんと受験ができるためにはどうすればよいかを考え、待ちの姿勢ではなく自分から動くようにして、代筆者、代読者も入れて受けました。第一号というのは何でも大変で、配慮の仕方とかも探り探りですが、次の人に生かせるようにという思いで取り組んでいます。少しでも良い方向に持っていけるようにと考え、失敗を恐れずにチャレンジしています。

私はアマチュア、業務用無線の資格も持っているのですが、これは何回でも受けて良い試験ということもあり、試しにやってみようと思い、補助なしで受験しました。外国語の試験を受けるような感じで、文字の形を覚えて臨みました。定期試験のようなものだと一発勝負というプレッシャーがありますが、そういうのがないので自由にできました。目的に対する手段は複数あると思うので、それを色々試してみる。予備プランを設けて、失敗してもいいから試してみる。人よりも試してみるということを心がけています。

■ドローンを使った仕事の幅は広がっていますか。

一つ一つの仕事の内容が鋭くなっていると思います。これまでも空撮、橋の点検、教育、講演会等、幅広くやっていましたが、さらに幅広く携わりつつも、個々に対して高度に専門的になっているように思います。空撮も特殊な事例に取り組んだり、点検も立ち入り禁止の場所行ったりしています。幅広く、深くなっている気がします。

現在は、厚木の消防とも連携し、講師もやっています。年1回の講習や出動、人命救助の要請も受けることもあります。どこまでは消防が請け負う、ここからは自分が担当する等も取り決めて行っています。携わっているそれぞれの仕事がお互いに役に立っているという実感があります。

■引きこもりの方を集めてドローンの使い方を教えるのもよいかもしれないですね。

そうですね。私は競技用のドローンをやっていますが、競技会で初めて他の人が飛ばしているのを見ました。同じ趣味を持っている人が大勢いて、すごく面白かったのを覚えています。当時の私は礼儀知らずで無礼者だったかもしれないですが、皆さん色々教えてくれましたし、今も繋がりがあります。新しく来た人に対して、今度は自分が教える立場にもなっています。皆さん実際にお会いしてみると良い人が大半でした。外に出るきっかけづくりとしてはメンタル的な要素にも良いかもしれません。200kmのスピードが出るドローンは場所もお金も時間もかかりますが、小さい室内用のものは競技会も色々なところでやっていますし、初心者でもスタートしやすいかと思います。ドローンという共通の趣味を通じて、多様で様々なバックグラウンドの人と出会えるというのはとても面白いことだなと思っています。

■その際には、ぜひ講師役としてお願いしたいです。

もちろん、機会があればやらせてもらいます。ドローンの大会には、シミュレーターの大会もあります。コロナ禍で海外選手を呼べなかったり、渡航できなかったりしたので、オンラインのような感じで競技会が開催されているんです。私も賞金をもらえた大会もありました。大会に参加することで、自分も戦えるんだという自信にもなると思います。私は身体も弱く劣っているというコンプレックスがありましたが、初めてドローンの大会で4位になって他人と対等に戦えるのが嬉しかったんです。気の持ちようも変わるし、私もできるんだって思えました。

■これからのドローンの仕事の可能性についてはどう考えていますか。

現在、ドローンパイロット不足といわれていますが、その理由は経験を積む機会が少ないからだと思っています。日本以外ではドローン市場は伸びると思っています。日本も伸ばしていきたいのですが、法律の問題をクリアにできない現状があるので、一般の人まで普及するかというと、もう5-10年かかると思っています。過去の様子を見ても、世界が5年で進むところを日本は10年で行く状況があります。今のドローン市場は、専門家の人が頑張っているから進んでいるのであって、昨日今日始めた人が即戦力になるかと言ったら違います。伸びなくはないものの、足踏み状態なのが現実だと思います。日本には、免許はなくても操縦が上手な人もいますが、免許が必要となると面倒くさくなってやめてしまう人も多いのが現状です。趣味なら免許不要というような形になってくれたら、より良いなと思っています。

■DO-IT Japanについて教えてください。

DO-IT Japanは、障害や病気のある子どもたちや若者から、将来の社会的なリーダーを育て、共にインクルーシブな社会の実現を目指す、東京大学先端科学技術研究センター主催のプロジェクトです。私も高校1年生の夏に参加しました。ここの中邑教授を筆頭に、関係者の方がすごく熱心なんです。私は識字障害がある分、聞く能力については長けているという点で少し天狗になっている部分もあったのですが、そんな自分の鼻を中邑教授はポキポキ折るんです(笑)。そういう特殊能力を持った人を集めたら、君も普通になるんだよって言われるんですよ。先生は教育者みたいな話はしないものの、お話はとても面白くてためになるんです。

■好きなことを仕事にすることについてお聞かせください。

よく「好きなことを仕事にすると嫌になる」と聞きますが、私はそんなこと全然ないですね。朝から晩まで、休みの日もドローン飛ばしても、楽しかった!と思えます。おかしいのではないかと思うぐらい楽しいんです。

だからこそ好きなことを仕事にするうえでも、自分が安心できる材料とかあるといいかもしれないですね。

ドローンとは関係ありませんが、私は宅配ピザのバイトをやってみたいと思って、Uber eatsを試してみたことがあります。指示通りやるだけではありますが、やっている時には無心になってできるから楽しいんです。仲間の世界も見ることができて、全然違う分野に挑戦できるのも楽しいですね。

講演会当日は、お父様の浩昭さんにもお話を伺う予定です。智樹さんの障害を受け入れるまでどのような思いで過ごされていたのか、ドローンパイロットになりたいという智樹さんの意志を尊重し、会社員をやめてご自身の会社を設立するまでの経緯など、子育てにお悩みの保護者の方にもためになる話をしてくださると思います。

当日はドローン操縦の実演もしていただきます。皆さまのご参加をお待ちしております。

(取材・文:間野 成、菊川 綾乃)